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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2649号 判決 1985年4月15日

千葉県浦安市今川一丁目五番九号

控訴人

村松正喜

右法定代理人親権者

村松喜平

村松昌子

右訴訟代理人弁護士

小川敏夫

被控訴人

右代表者法務大臣

嶋崎均

右指定代理人

岩谷久明

萩野譲

江口厚太郎

松村武志

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金七四五円及びこれに対する昭和五八年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴代理人において、「源泉徴収制度の目的は、所得税法第二一条による所得税の額の計算が確定し所得税納付義務が発生した場合に、源泉徴収額を所得税の額の範囲内においてその納付期限に納付があつたものとみなすところにあり、選択源泉分離課税の場合を除き、徴収した資金が国に帰属することを定めた実体法規ではなく、実体法たる右法条によつて定まる所得税を徴収する手続を定めたにとどまるものであるから、源泉徴収額が所得税額を上回つた場合は、当然これを不当利得として返還すべきものである。ちなみに、所得税法第二一条と第一三八条第一項とを対比すると後者にいう「所得税」とは還付する金額に相当する金額を意味するにすぎず、国民の納付すべき所得税とは別の意味の用語であることが明らかであるから、同条項を根拠として源泉徴収額は所得税法上の所得税であり不当利得に当たらないとすることはできない。」と述べ、被控訴代理人において、「控訴人の右主張を争う。」と述べたほかは、原判決事実摘示(判決書中一一丁表二行目「還付金の」を「還付金と」に、一二丁表四行目「なる。」を「なる」に、一三丁表末行「いわれはない。」」を「いわれはない」に改める。)と同一であるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次の二の説示を付加するほか原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

二  国税通則法及び所得税法中の源泉徴収に関する規定によれば、源泉徴収義務者たる支払者(本件の場合には、技研興業)において所得税法第一八一条第一項及び第一八二条に基づき源泉徴収をしてこれを国に納付するのは支払者が納税者の立場でする所得税の納付(受給者(本件の場合には、控訴人)において源泉納付義務を負うことを当然の前提とするものであり、両者は表裏の関係にある。)にほかならず、したがつて該徴収額は後日確定すべき所得税に充当するための資金として国が保管するものでないことを明らであり、また同法第一三八条第一項の「所得税」が控訴人のいう別意の用語と解し得ないこともまた明らかである。なお、控訴人指摘の同法第二一条は、税額計算の順序を定めた規定であり源泉徴収に係る金員の性質決定に資するものではない。

しかして、同法第一三八条第一項による源泉徴収額の還付金は、目的を欠く租税の納付があつたことによる国の不当利得の返還金たる性格を持つ過誤納金とは異なり、事柄の性質上不当利得返還の性格を持つ筋合いのものではないから、民法の不当利得の規定による余地はなく、専ら国税通則法及び所得税法の定めるところにより還付を受けるべきものである。

控訴人の主張するところは、源泉徴収制度に対する独自の見解に立脚するものでつて、採用できない。

三  よつて、原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第九五条及び第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 裁判官 上野精)

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